地歌(地唄)、三下り端歌物。湖出市十郎(1740~1800)作曲。初世桜田治助作詞。黒髪は地歌の代表曲でもあり、入門曲でもあります。
1784(天明4)年11月江戸中村座『大商蛭小島(おおあきないひるがこじま)』で伊東祐親の息女辰姫が恋人の源頼朝を北条の息女政子に譲って、髪を梳きながら嫉妬の念に狂おしくなる場面で使われた曲が「黒髪」で、大坂で地歌として流行しました。雪の積もる静かな夜、夫を思って片袖を夫に見立てて、一人寝る黒髪の女性の寂しい恋心が積もり、いつしか白髪が交じる様子に時の移り変わりの無常を歌っています。
【歌詞】
黒髪の、結ぼほれたる思ひをば、解けて寝た夜の枕こそ、
独り寝る夜の徒枕、袖は片敷く夫ぢゃというて、
愚痴な女の心と知らで、しんと更け行く鐘の声、
昨夜の夢の今朝覚めて、ゆかし懐かし遣瀬なや、
積もると知らで、積もる白雪。