地歌。本調子端歌物。広橋勾当(1740?~?)作曲。世によく知られる地唄の代表曲の一つで、舞としても人気の曲です。この曲は、釈迦の「愛別離苦(あいべつりく)、会者定離(えしゃじょうり)」が拠り所となっています。「愛別離苦」とは、愛する人と生別または死別する苦痛や悲しみ、「会者定離」とは、命あるものは必ず死に、出会った者は必ず別れることになる、という意味です。秋の風物(鳥の声、鐘の音、菊、露、秋の風)に寄せて音沙汰のない男を恨み、返らぬ恋を嘆いています。切なくやるせない気持ちを歌っています。二上がりからの「思はじな、逢ふは別れと云へども愚痴に~」は名文句として知られ、幕末に「独吟はうた」として流行しました。文楽に、お里と沢市の夫婦愛の話として人々に親しまれている「壷坂霊験記」という話があるが、その中で盲目の沢市が一人さびしく爪弾く曲がこの「菊の露」です。
【歌詞】
鳥の声、鐘の音さへ身に沁みて、思ひ出すほど涙が先へ、落ちて流るる妹背の川を、[合]
と渡る舟の楫だに絶えて、櫂もなき世と恨みて過ぐる。[合]
思はじな、逢ふは別れと言へども愚痴に、
庭の小菊のその名に愛でて、昼は眺めて暮らしもせうが、
夜よるごとに置く露の、露の命のつれなや憎や、
今はこの身に秋の風。
【その他の演奏形式】
二重奏(三絃+尺八)~https://youtu.be/5gfuivqKqNM
二重奏(三絃+尺八)~https://youtu.be/NkJd6hAOdSE