地唄(地歌)。二上り手事物。祝儀曲。 三つ橋勾当作曲。松本一翁作詞。文化・文政(1804〜1830)ごろ成立。大阪系の地歌で、「根曳の松」「名所土産」とともに、「三役物」の一つです。
歌詞内容は、正月の子の日の遊びの行事において引き抜く根曳の松にちなんで、初春の情景を様々に叙した内容です。「根曳きの松」とは、正月の子の日に野辺の小松を引き抜いて家に持ち帰り、自邸の庭に移し植えた風習のこと。「子の日の遊び」と同じで、後世の「門松」の風習の元になっている。
手事は三箇所に入り、前弾がつきます。前歌で伊勢の神楽や催馬楽などの古代の音楽を扱い、最初の手事で伊勢の太神楽を暗示します。次いで摂津の田蓑島の鶴を叙して中の手事に続け、箏組歌『菜蕗』をもじった歌を経て最後の手事へと入ります。最後の手事はマクラ(楽の手)・手事二段からなり、巣籠地をあわせます。結びは正月の万歳から君が代を祝って終わります。
三味線の調弦は低二上り-三下り-本調子-二上りと転じ,箏もそれに応じて変化します。手付けは八重崎検校や峰崎勾当が行なっています。
三つ橋勾当は曲中の手事の数を増やし、より長大で変化に富んだものとし、楽曲は器楽的な側面を強くしていきました。
「根曳の松」は、手事物の代表的な1曲(手事は3ヶ所)として知られ、テクニックの限りを尽くして演奏される人気曲であり難曲としても有名な大曲です。「松竹梅」「名所土産」とともに,〈三役物〉という三味線手事の最高の曲とされ伝承上も重要な曲とされています。
尚、ここでの演奏は、宮城道雄著の楽譜に沿ったものです。
【歌詞】
神風や、伊勢の神楽の学びして、 萩にはあらぬ笛竹の、音も催馬楽(さいばら)に、 吹き納めばや。
難波津のなにはづの、芦原に昇る朝日のもとに住む、 田蓑の鶴の声々を、琴の調べに聞きなして、 軒端に通ふ春風も、菜蕗(ふき)や茗荷のめでたさに、 野守の宿の門松は、老ひたるままに若みどり、 世も麗らかになりにけり。
そもそも松の徳若に、万才祝ふ君が代は、 蓬が島もよそならず、秋津島てふ国の豊かさ。
【その他の演奏形式】
二重奏(三絃・尺八)~https://youtu.be/MSOikZxISvI